東京世田谷の女子大学校内にスポーツ体育館と屋内温水プールがありました。キャンパスの施設建物計画により既存の体育館+プールを建替えて、地上6階の教室棟と地下プール+地上体育館とする計画を「古橋建築事務所」様が設計監理されました。そのうち地下プール+地上体育館 棟の設計+監理を担当させていただきました。
設計者として願うこと
地下建築物を計画設計する場合、設計者として 出来れば願うことがいくつかあります。
願うこととは、当初の設計条件として出来る限り費用を必要とするような制限規制が、無いことです。それは、
- 建物を支えてくれる固い地盤が地下建物の底面の直下にあること
→杭や地盤改良工事が不要となるため - 地下水脈の高さが地下建物より下方にあること
→地下建物が地下水の影響を受けにくくなる - 埋蔵文化財が発見されないこと
→埋蔵文化財が発見されると地中の文化財の有無の調査が行われ、その費用と時間は建主負担になる - 地中に隠れた障害物や汚染物が無いこと
→有る場合は建主様負担で除去しなければならなくなる、工事期間が延長される
これらは専門調査を実施しないと判明しないのと、影響がある場合にはその対処費用が高額であることが多く、さらに避けて通ることが出来ずに、建主様にとって痛い出費になるからです。
地下水位
地下水とは、地下の地層のある層が水を含んだもののことを指します。地下水の場所は、地盤調査(ボーリング調査)でその高さ位置が分かります。
今回の設計中に行われた地盤調査の結果により、地面から2〜3m弱の位置に地下水が出ることが判明しました。
地下建物の計画深さの範囲に地下水の層があるので、設計者として地下建物の外壁からの地下水の侵入を心配しました。それは、常に地下建物が、地下水が充満した場所にあるということになるからです。
地下土留め擁壁SMW
地下建物を建設するとき、建物は物理的にどうしても現地で組み立てなければならないので、一旦建物より少し広く土を掘り、そこに建物を造ります。
方法は、何通りかあります。
- 空掘工法(オープンカット工法)
- 親杭横矢板土留め工法
- SMW土留め工法
- 逆打ち工法
→関連記事「大学施設の地下室内プール建設工事の地下外壁地中土留め連続擁壁SMW」
今回は、敷地周囲の空地無し、地下建物の深度、地下水の有、から、SMW土留め工法が採用されました。
SMW土留め工法は、ソイル セメント ミキシングウォールの略で、地面に対して垂直に立てた掘削用ドリルを回転しながら差して地面を掘り、同時にセメントと水を掘削している部分に注入して撹拌(かくはん)します。すると撹拌されている部分は、鉄筋のないコンクリートのようになり、掘削ドリルを引き抜いた後直ぐに鉄骨材を骨芯材になるように差し落とします。セメントと土と水が固まってコンクリートの壁が地中に出来て、土留めになります。
これを親杭(H形鋼)と横矢板では届かない場所まで土留め壁を形成できる、「ソイルセメント ミキシング ウォール:SMW工法:柱列式連続壁工法」と呼んでいます。
SMW工法は、地下水の止水に対しては不確実ですが、連続的なセメント壁が形成出来るので、止水効果の多少の期待をします。
掘削した状況の止水
実際、SMW工法による土留め壁が造られた後、地下が掘り進められ、建物底面下の床付けがされたとき、土留め壁からは地下水の顕著な出水はなく、地下建物が常に水中に浸けられている状況にならないことに安心しました。
地下外壁から侵入する地下水の侵入ルート
地下土留め擁壁から地下水の出水がなかったからと言って、地下建物の防水の仕様グレードを落とすことはしません。完成後の見えない地中で、何が起こるか分からないからです。
今回は外壁外側の防水は出来ないので、地下水が侵入して来る可能性がある部分を止水仕様にしたり、外壁内側面に防水を施したり、さらに地下水が侵入した際の処理を多重に行い、地下室に地下水の侵入が影響の無いようにしました。
外壁外側の防水が出来ないのは、コンクリート外壁を造る際に 土留め擁壁であるSMWを外壁外側の型枠としてコンクリートを打設し、SMWはそのままの形で維持継続されるので、外壁外側面は見えて来ず、外壁外側面には防水が施せません。
地下水侵入防止は、以下の箇所を重点的に防水仕様にしました。
- ジャンカやコールドジョイントー蜜実なコンクリートの打設
- コンクリート打継ぎ位置
- 型枠支持のセパレート穴
蜜実なコンクリート
地下建物では、地下水が外からの土圧などにより重力が働かないくらいに一定に水圧が建物に掛かり、コンクリートに孔などの隙間が有れば土圧に押されて水は侵入してきます。
どんな部分でもコンクリートでは当たり前のことですが、ジャンカやコールドジョイントなどの水の道となる孔などを造らない蜜実なコンクリートを造ることが重要になります。
地下の外周壁は土圧に耐える壁厚となるので、コンクリート型枠の寸法も大きいためにジャンカやコールドジョイントが無い様に造ることが容易の様です。
コンクリートの打ち継ぎ部の止水
コンクリートは原則的に階毎にコンクリートを打設します。すると下の階と上の階ではコンクリートを打設する日時が異なります。コンクリートが硬化した日時が異なれば、コンクリートは一体にはなりません。日時が異なるコンクリートの境い目は「打ち継ぎ」部と呼び、その部分から外部の水が内部に侵入してくる可能性が高くなります。
特に地下は、地下水が、下に落ちずに全面に水圧が掛かり、打ち継ぎの隙間が有れば土圧に押されて水は侵入してきます。
この打継ぎ部の止水は、打継ぎ部が水平に連続するので、下の階のコンクリート打設時に 打継ぎ部の外周上端部を途切れ無く一周する様に上端部から突き出るように樹脂製の止水板を設置します。上の階のコンクリートが打設されると、止水板は上の階のコンクリートに刺さる様に固定されて、結果、下階と上階を繋ぐ様な形になって、外側から打継ぎ部に侵入して来た地下水を止める役割になります。
コンクリート内側の防水
外壁外側に防水が施工できない場合は、内側面に防水面を形成します。屋根の様に水平ではなく垂直面なので、そのほとんどが塗布防水系の防水工法です。
目的は、将来に起こってしまうかもしれないコンクリートのひび割れに対して、防水材自体が伸縮する材料にして、ひび割れに追従出来る防水材が選ばれて施工されました。
湧水の集水と排水
それでも地下外壁面から地下水が侵入してしまった場合のために、地下室内部に地下水が侵入しないために、地下水を地下の下部に集めてポンプで汲み上げて排水出来る仕組みを形成しました。
外壁外側から侵入した地下水(この侵入水を湧水(ゆうすい)と呼んでいます)=湧水を、外壁内側面を伝わせて、最下階の床レベルまで落とします。床に排水孔を開けておいて、湧水を更に下の「ピット」に落とします。ピットに落ちた湧水は、ピットの中でも一番深い部分に集められ、そこに用意された排水ポンプで地上に上げられて排水処理される仕組みになっています。
二重壁
外壁面から侵入した湧水が、地下室に影響を与えない様に、外壁内側の手前には、全周に渡りもう一枚壁を立てて二重壁にします。湧水はこの二重壁内だけで処理が出来るようになっています。
地下室のコスト費用
この様に、地下室を設ける場合、
- 地下の土を掘ること と 土留め仮設
- 地下水の侵入を防ぐ多重の防止策
を行うために、地上の建物と比べて費用コストが掛かります。
結果、地上の費用の1.5倍~2倍の費用コストが掛かります。
関連解説記事リンク—地下—
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