東京都内の某大学キャンパス内の地上に体育館・地下に屋内プールが配置された「スポーツ棟」の建て替え計画で、「古橋建築事務所」様が設計監理するチームの一員として設計・監理を協力・担当させていただきました。
建物の規模は、敷地の条件から、地下2階地上2階で、25メートルの屋内プールは地下に配置されて、プールの上に体育館が載る格好になりました。
地下11メートルの構造体
地面下 約11メートルの深さまで地面を掘るとき、掘って空洞になった部分に向かって、掘らずに残された周囲の土が押されて倒れて来ようとします。
最終的には地下コンクリートの構造体が周囲の土が押す力=土圧力に耐えられるように造られて均衡を保ちますが、その構造体を現地で造る間は、周囲の土が倒れないように支えておかなければなりません。
土留め擁壁の工法
地下の建物を造る場合、はじめに土を掘り空洞を作って、そこに建物を造ります。
建物は地下のために鉄筋コンクリート造になります。これは法令でも定められています(建築基準法 施工令 第37条「構造部材の耐久」)。
鉄筋コンクリート造の建物の面積規模や高さ(深さ)により、土の掘り方=周囲の土の留め方=土留め工法が異なります。
- 空掘工法(オープンカット工法)
- 親杭横矢板土留め工法
- SMW土留め工法
- 逆打ち工法
空掘(オープンカット)工法
土壌の安定勾配(35度位まで=法(のり)面)を利用して,山留め壁を設けずに地表面から掘りすすめていく工法です。土地が広く法面を設けられる場合に用いられます。
親杭横矢板
地下の建物の周囲に、土を掘る前に、親杭(H形鋼)を約80~150cm間隔で地面に指して、地表面から地下に土を掘り進めながら、親杭(H形鋼)の間に木製の横矢板をはめ込んで周囲の土圧を留める方法です。
掘削する深さの2倍の長さの親杭(H形鋼)を差し込む必要があります。地盤が硬くても可能で、小さな埋設物があっても対処可能です。
空掘(オープンカット)工法と比べて、土留め壁を垂直に立てられるメリットがあり、費用が小さいことから、多くの場合で利用されています。
ただし地盤から地下水が湧く場合の遮水性が劣り、軟弱な地盤では利用できません。
SMW(ソイルセメントミキシングウォール)
ドリルを地面に対して垂直に回転しながら差して掘り、同時にセメントと水を注入して撹拌(かくはん)し、鉄筋のないコンクリートのようにして、その後直ぐに鉄骨材を骨芯材になるように差し込みます。セメントと土と水が固まってコンクリートの壁が地中に出来て、土留めになります。
これを親杭(H形鋼)と横矢板では届かない場所まで土留め壁を形成できる、「ソイルセメント ミキシング ウォール:SMW工法:柱列式連続壁工法」と呼んでいます。
逆打ち工法
土留め壁を地下建物の周囲に差し込まずに、地上から下に向かって順にコンクリート構造を造り、そのコンクリート構造自体を山留めにする方法です。一番下の構造から上部に向かって造らずに、地上面から下に向かって造っていくので「逆打ち工法」と呼びます。
この工法は、建物を支える地中の支持地盤が地下建物の底にある場合(杭や地盤改良を不要とする場合)に利用でき、工期短縮が望めます。しかし支持地盤が深かったり、地下水がある場合には地下外壁の防水止水面の完璧な形成が困難なので不向きです。
土留め工法(親杭横矢板?SMW?)の選択
実際の工事で土留め工法を選び際は、
- 地下建物の深さ(地下掘削の深さ)
- 地下地盤の固さ
- 地下水の水位
が考慮されて定められます。
今回は、地下深さ11メートルを越え(親杭鉄骨材はさらに長いものが必要)、軟弱地盤ではなく、その深さの中で地下水の存在も地盤調査で判明していたため、SMW工法が選ばれました。
ちなみに地下室のない教室棟は地面下部はコンクリート基礎だけなので(深さ約2メートル)、地下掘削の土留めは親杭横矢板で行われました。
SMWに期待すること
SMW工(ソイルセメント ミキシング ウォール:柱列式連続壁工法)は単なる土留めのためだけではなく、地下水の構造体への進入を防ぐものとしても多少ですが期待するところがあります。
親杭横矢板は、矢板と矢板の間から地下水は簡単に出てきますが、SMWは、鉄筋は入っていませんがコンクリートが連続して面を形成しているからです。
飽くまでも仮設材なので、これに止水機能の役割を担わせることはできませんが、地下掘削が終わったとき、土留め壁から地下水が湧いて来ない状況が確認できると、多少ですが地下水の地下建物への進入の心配が少し無くなります。
複数のドリルを回転させる巨大な重機で、土を垂直に掘り撹拌しながら土にセメントと水が混ぜられていきます。撹拌されセメントと水と混ざった土はコンクリートとなって固まります。これに鉄骨H型鋼を差し込んで土留め壁が出来上がります。
鉄骨H型鋼の底の面を基準にして、土が掘り進められ、深さが深くなる度に、SMWのH型鋼が倒れて来ないように水平に「腹起こし材」が巡らされて、「腹起こし材」を水平に支える つっかえ棒になるように「切り梁」が設置されていきます。
この腹起こし+切り梁は 2段設けられて、地下掘削が終了しました。地下掘削のことを根切り工事とも言い、掘削面の底を「根切り底」と呼びます。
根切り底には鉄筋のないコンクリート(捨てコンクリートと呼びます)が打たれて(写真の床面のコンクリート)、ここから地下構造体が組み立てられていきます。
関連解説記事リンク—地下—
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