東京都世田谷区の女子大学キャンパス内に、屋内プールと体育館とが一体に建てられた施設がありました。キャンパスの施設建替え計画により、既存の屋内プールと体育館を解体して、教室棟と屋内プールと体育館のスポーツ棟を建設する計画を「古橋建築事務所」様が設計監理されました。そのうちの屋内プールと体育館のスポーツ棟の設計と監理を担当協力させていただきました。
建築は、地下に25メートルプール、地上に体育館が載る構成です。
地下は地表から約16メートルの深さの鉄筋コンクリート構造で、地上で同じモノを建てることと比べれば、
- 地下防水防湿対策
- 排水対策
- 採光トップライト
が特別に設けられました。
地下には、地上では要らないものが増える
地面を掘って地下に建物を造ろうとする場合、地上に同じモノを造るのと比べて、色々と追加で必要になるものがあります。
- 土留め擁壁
- 土の掘削
- 鉄筋コンクリート
- 外壁防水
- 進入水と湿気を遮る外周二重壁
- 汲み上げ排水ポンプ
- 湿気除去換気空調
- 採光窓ドライエリア
- 避難設備・消防設備
などが必要になります。
土留め擁壁
地面を掘り進める際、その掘る面を斜め35度くらいまでに抑えて掘り進んで行けば、残っている土面はその自重によって抑えられて下方に崩れ落ちないとされています。しかし掘り進めれば掘り進むほど広くなるので、現実的な掘削方法ではありません。
地下建物を造る際、地面は垂直に掘り進められます。掘られた土面はその地肌を表しますが、そのままにしていると土の自重、周囲の土圧により、掘られた土面は内側に崩れて来ます。
地中建物が完成すれば、この土圧を建物で支えることになりますが、完成までの間、土面が崩れないように押さえておかなければなりません。工事中の仮設の土留め擁壁が必要になります。
土留め工法の種類と簡単な解説については下記の記事をご覧ください。
この土留め擁壁は、掘削する土の深さ、地中地盤の固さ、により定められますが、飽くまでも仮設物であり、地上では建物の周りに足場を組みますが この地下版であり、地上の足場と比べれば、土留め擁壁を完成するまでの工期も費用も地上以上に必要になります。
今回の計画(地下2階、底盤深さ=約16メートル)では、土留め擁壁は SMW 工法が選ばれて、大型の掘削機が運び込まれて土留め連続擁壁が形成されました。(ちなみに、この仮設でも土留め擁壁の効果により、設計中に行われた地盤調査時に地下水有りという調査結果でしたが、SMWの止水効果か、地下掘削時には地下水の出水はありませんでした。)
土の掘削
地下建物外周をぐるりと囲う土留め擁壁が地中に挿入された後に、地下建物が造られる部分の土の掘削が始められました。(土留めSMW設置時は地面は平らのままです)
延々と、シャベルカーが土を掘り、土がダンプカーに積載されて、現場外の処分場に運び出されます。
外周の土留めSMW擁壁が見え始め、鉄骨杭の列柱が並んでいます。深さが深くなる度に、SMW擁壁を内部側から支えるために、垂直の鉄骨杭に直角に水平な「腹起こし材」で支えて、さらに「腹起こし材」を支える 突っ張り棒になるように「切り梁」が設けられます。
建物の底まで掘り進められると、「床付け(とこづけ)」と言われる薄い鉄筋の入らないコンクリートが打設されて、地下掘削が完了し、次の鉄筋コンクリートの組み立てが始まります。
鉄筋コンクリート
地下の建物は、
- 地下水による腐食に耐えられる
ようにするために、鉄筋コンクリート造で造ることが必須になります。
また、
- 地下の土圧に耐えられる
ために、周囲外壁の厚みも厚くなり、内部の部材の寸法も大きくなります。
外壁防水
地下には地下水を含んでいる場所が多くあります。塊になっていることではなく、ある一部の層面に水分を多く含んでいる形です。今回の場所では、設計中の地盤調査により、地面表面から約2メートルの深さの位置に地下水が出ることが分かっていました。
地下水が有るときの地下建物では、建物外周壁面の外側面に防水面を施工します。
その防水の方法は、
- 後やり工法
- 先やり工法
があります。
▶︎ 関連記事「地下コンクリート建築物外壁防水の種類と工法と効果」
今回は敷地の広さに余裕が無かったため、設計段階では「先やり工法」が選ばれていました。
工事が始まって土留め擁壁SMW施工後、土の掘削が行われて、構造体を造る地下が全て掘られたときに、SMW土留め擁壁の効果で地下水の流入が無かったために、地下外壁の外周面における防水は、建物内側で行う防水に改められました。
進入水と湿気を遮る外周二重壁
建設時に地下建物の外壁防水を完璧に施しても、何らかの理由で地下水が建物内に進入してしまうことがあります。地下建物の外壁防水の改修は中々困難なことが多く、止水に苦慮する場合があります。
はじめから地下水が進入することを前提にすることは良くありませんが、万が一のため、地下水が進入しても、それは室内に入らないようにして、排水出来るようにしました。
地下外壁面に二重壁を設けて、万が一の進入地下水はこの中で下方に流れるようにしました。二重壁は湿気を内側に移さない効果もあります。進入地下水はさらに下部の「ピット」と呼ぶ床下空間に流れるようにしてあります。
汲み上げ排水ポンプ
最下部の「ピット」に流れた進入地下水は、ピットの床に勾配を付けることで集められ、水が集まる所に排水ポンプを設置しておき、進入地下水が溜まってしまった時は排水ポンプが作動して進入地下水を汲み上げて排水するようになっています。
湿気除去換気空調
地下室は、外部に面する窓がほとんど無く、窓を開けて自然換気が出来ない場合が殆どです。そのために地下室では湿気がこもり易い環境になってしまいます。そこで、湿気を除去する換気設備や湿気を除去して乾いた空気を戻す空調エアコン設備を多重に設置したり、なるべく長い時間稼働していただくようにします。
採光窓・ドライエリア
地下室のもう一つ足りないものは日射です。何もしなければ太陽の光が差し込みません。人が部屋で暮らす際、日射が無いと身体的に辛くなります。
そこで、可能であれば、採光の窓を設けます。それは天窓トップライトであったり、部屋の前に空堀りドライエリア を設けて開口窓を設けて日射を確保します。
今回の地下プールでは、天窓トップライトを設けて日中は照明が不要なほど室内の照度を確保されています。
法令避難設備・消火設備
地下室では、その規模と階数と用途により、
- 地上への避難設備
- 消火活動用消防設備
の設置規制があります。地上より厳しい規制があります。
費用コスト比較
上記のような様々な要因により、地下建物は地上建物より建設費用コストが高額になる傾向にあります。
同規模の地上建物の建設費用コストを1とすると、地下建物の費用コストは1.5~2.0 もしくはそれ以上になることがありますので、「地上に建物を造れない規制があるから、地下を掘って部屋を造る」という方針はしっかりと予算組をしてから始めることをお勧めします。
地下室の長所
もちろん、地下室にも長所があります。
- 温度が安定している・日射が入らない・・・美術品収蔵庫・ワインセラー
- 音振動が伝わらない・・・音楽室・映画鑑賞室
- 地震動が地上と比べて小さい
などと、機能的に大変優れている面もありますので、用途や規模に合点がいく場合は、地下室を計画すべき建物もあります。
関連解説記事リンク—地下—
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