平成18年から分譲が始まった横浜市のマンションが、隣接する別棟との高さのずれが出来ているという件で、報道をはじめとして取り上げられています。当該住戸に住まわれている方々におかれては、大変心配なことになっておられると思います。(全住戸建て替えになったそうです)
正確な事実を把握することは困難なので、こちらでは、
- 建物の下の「杭」とはどんなものなのか?
- 「杭」はどうやって決まり、どのように工事されるのか?
- 確実な品質管理はどうすれば良いか?=改ざん防止対策
を、お伝えしようと思います。
建物の下の「杭」とはどんなものなのか?
建物は地面の上に載せられて建ちます。建物の重さが載せられた地面の固さより軽ければ、建物はそのまま建っていますが、載せられた地盤が柔らかく建物の重さを支えられないと建物は地面より沈んだりめり込んだりしてしまいます。
地面が柔らかい場合、建物の重さを載せられる地面の中にある固い地盤に載せなければなりません。建物を固い地盤に載せるために、建物の真下の地面の中に挿して、建物を支える棒を「杭」と読んでいます。
「杭」は地面の中の固い地盤(=「支持地盤」と言います)と地面が離れている場合に使用され、支持地盤が浅い場合は地面自体を固くして(=「地盤改良」と言います)建物をその上に載せます。
「杭」はどのように決まるのか?
建物の設計が始まり、建物の大きさと構造が定まると建物の重さが判ります。その重さに応じて、建物を支えてくれる「支持地盤」が地面のどこにあるかを調査します。(=「地盤調査」とか「ボーリング調査」と言います)
地盤調査の例1
「地盤調査」の場所は、本来は建物の柱が建つところ(=垂直方向の力が地面に伝わる場所)で全て行うことが理想なのですが、「支持地盤」の形状は平らであることが多く、また調査コストを鑑みて、建物の規模を鑑みて定められます。
地盤調査の例2(動画)
複数の場所で行われた「地盤調査」の結果から、「支持地盤」の深さを割り出し、そちらに届く「杭」を建物の重さ、「支持地盤」の深さ、地質の種類、地下水位、コスト等から検討し設計されます。
確実な品質管理はどうすれば良いか?=改ざん防止対策
今回の報道によりますと、「支持地盤」まで届いていない「杭」があるとのことですが、「支持地盤」が建物の範囲で段差があり平らではなかったような説明図が示されていて、部分的に「支持地盤」が深くなっている範囲があるように見えました。
これが事実とすると、「地盤調査」の時点でこの「支持地盤」が平らではないということが判らなかったことがまず原因のひとつと考えます。段違いの「支持地盤」があることは判っていれば、「杭」の長さは「支持地盤」までの長さで正しく設計されたと思うからです。しかしながら、地面の中という見えない場所にある「支持地盤」を、「杭」を打つ全ての場所で行うのは大変なコストが掛かり現実的ではないでしょう。
そこで「杭」を現場で施工した際に、元々長さが足りなかった訳ですから「支持地盤」に届く訳がありません。このような場合は現場で多く起こることで、届かない場合もあり、逆に「杭」の長さが長過ぎる場合もあります。長さが足りない場合は、付け足すしかありません。しかし「杭」は沢山在庫している部材ではないので、正しい長さの適当な「杭」は、直ぐに手配して入手することは困難です。入手して工事を再開出来るまでには、何日か掛かるかも知れませんし、数週間に及ぶかもしれません。そこに問題が生じたのだと思われますが、報道が事実とすると現場工事担当者は「杭の長さが足りない」ことを上席の担当に伝えず「杭が支持地盤まで届いた」と報告してしまったのだと思われます。これが改ざんされたという部分です。
問題は、そこに事実を客観的に見る工事会社とは独立した「監理者」が居て監督していれば、「杭の長さが足りない」事実も直ぐに判明したでしょうし、不良な工事結果を改ざんして報告してしまうこともなかったと思われます。報道では、改ざんを行った工事担当者複数名と関係者しか話題に上らず、正しい解決策を説明する解説者も見られなかったことは、非常に残念です。
「監理者」とは、建て主と工事契約を結んだ工事会社とは別に、建て主と独自に契約し、工事内容が設計図書の通りに品質が維持されているかを監理監督をする役目で、多くは設計者がこの任を担います。「監理者」は「杭」工事の際は通常、「杭」が「支持地盤」に届いたことをその都度確認します。
今回のような施工不良と工事結果の改ざんを繰り返さないためには、工事従事者のモラルを高め、建物の設計施工一括発注を避け、設計監理(設計事務所)と工事(工務店)に分けて発注を行うことが唯一の方法と思われます。これは一般住宅から大型のビル、マンションまで、全ての建物で共通して言えることです。
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