九州福岡博多賃貸テナントビル事務所を飲食物販店舗に用途変更

遠距離の用途変更

建物所有者様は、以前にも用途変更の申請手続きを当方にご依頼してくださったことがあったので

  • 申請手続きにたくさんの法令手続きが関係していること
  • 申請手続きに長い時間がかかること
  • 既存の建物に法令違反があると、用途変更の申請手続きが進まないこと

をよく理解されておられて、また申請建物と手続きを行う設計者が遠距離で離れていても問題ないことを承知されていました。

申請手続きを行う設計者としても、遠方の役所に度々相談に行くのは効率を低めるので、当初は、民間の確認検査機関に申請手続きを行う相談を始めましたが、福祉のまちづくり条例や建築基準法の法令判断は、結局のところ当該建物が立地する市役所の建築指導課が判断することがほとんどなので、当該建物が立地する市役所の建築指導課に相談する方が明確で手続きがスムーズであると言う助言をいただいて、福岡市役所の建築指導課に相談と申請手続きを行うことになりました。

実際の福岡市役所の建築指導課 窓口ご担当様とのやりとりは、電話メール郵送を適宜利用することでスムーズに行うことができました。

既存図書の確認

はじめに建物の図面と確認申請及び検査済書の有無を確認しました。

図面は全て保存されており、

  • 建築確認済書
  • 工事完了検査済書
  • 設計図
  • 構造計算書

を確かめることができました。

これらの書面が無いと申請手続きが困難な場合があります。

  • 建築確認済書 → 書面自体がない場合は建築指導課に赴いて 建築台帳を調べて確認済書行の有無を確かめられます。済書発行が確認できない場合は 建物の設計が当時確認されずに建築されたことになるので その後の申請手続きは進められません。
  • 工事完了検査済書 → 建築確認済書同様 書面自体がない場合は建築指導課に赴いて 建築台帳を調べて検査済書発行の有無を確かめられます。済書発行が確認できない場合は 建物の存在は法令的に「建っていない」ことになるので 例え登記簿に登記されていても その後の申請手続きは進められません。
  • 設計図 → 既存建物を改めてコンピューター上で作図し直す必要から必要です。もし存在しないとなると 現地建物を実測し作図し直す必要があります。
  • 構造計算書 → 用途変更する部分が新たな用途になって構造的に問題のないことを確認するために必要です。これが残っていないと 構造的確認が出来ない場合があります。

既存建物の法令遵守状況・現地確認

既存建物の図書が揃ったところで 現状建物が「工事完了検査済書」を受けた時点と変わりないか? すなわち法令に沿わない増築や改築が行われていないかの確認が行われました。

これは置いてある家具や設備機器は対象としません。飽くまでも固定された床や壁などで固定されたもの=面積が変わるもの や 窓開口部や扉などの防火設備が確認されます。

今回では、火災時に発生する煙をブロックするための扉が改変されていたことが分かりました。内容は申請時に役所に報告され、工事時には改変されました。

既存部分の法令遡及部分

建物が完成 (昭和58年) してから今までに建築基準法は数度改正されました。改正された内容に対して建物の中でも該当する部分があります。

建築基準法の改正があっても現在建っている建物には改正された法律は適用されません。

しかしながら用途変更や増築を行なって確認申請を行う場合には、改正された法令に準拠しなければならないことがあります。その以前に建てられた建物を現在の法令に遡って適用させることを法令遡及と呼んでいます。

用途変更する場所について現在の法令に適合させることは理解は出来ても、変更しない部分も変更工事が必要になると事前に分かっていない場合は費用やスケジュールの予定がなくて困ってしまいます。用途変更や増築などの確認申請を行う場合は十分な準備調査が必要です。

こちらの建物では初め建築指導課から「エレベーターの出入り口開閉扉に遮煙性能を追加」するよう指導がありました。そこで、

  • 用途変更する部分は地上階で、直接道路に対して出入りする避難口を皆が通常利用すること
  • 用途変更する部分はエレベーターを利用しないこと
  • 用途変更する部分からの避難通路にエレベーターの出入り口開口が面しないこと

を建築指導課に説明し今回は法令遡及が不要であることの理解を得ました。

福祉のまちづくり条例

福祉のまちづくり条例で求められる内容は「高齢者、障害者を等をはじめ、すべての人が安全で快適に利用できるよう建築物を整備することが重要です。建築物を新設、改修する場合は、移動や利用に困難を抱える人の利用特性に配慮し、次の項目などに取り組み、安全で円滑に利用できる建築物になるよう整備します。

  • 道路から利用居室まで安全に移動できる経路の確保
  • 施設や設備を利用する際の適切な空間や寸法の確保
  • わかりやすく連続した案内・誘導の設置

とあり、この方針で整備するよう求められています。(「福岡市福祉のまちづくり条例 2-1-1 基本的な考え方」より)

各用途別にその広さ (面積) に応じて求められる整備内容が異なります。今回は飲食店舗 (300m2以上2000m2未満) ・物販店舗 (300m2未満) で求められる整備が異なりました。

出入り口扉

各店舗に入店する際の出入口扉の幅は最低80センチ以上確保が必要です。

店舗内通路

店舗内はスムーズに往来できるように通路の幅は120センチ以上確保が必要です。

店舗内段差傾斜路スロープ

店舗内の通路で段差が生じる場合は傾斜路スロープにして勾配1/12以下になるようにします。傾斜路には手すりを設置して、床は識別しやすい明度を付けて、傾斜路スロープの上端の床には点字ブロックを設置して傾斜路を認識できるようにします。

福祉型便房 (車いす対応トイレ)

福祉型便房を表示して、出入口の幅を80センチ以上確保し、車椅子が回転できるスペースを確保して、腰掛け便器を利用しやすいように手すりを設けます。その他 車椅子のまま利用できる洗面器、オストメイト、ベビーベッドなどを設けます。

必要な整備内容の確認が行われ認められました。

確認申請

建物を利用する形態が不特定多数の方が利用する用途 (特殊建築物 建築基準法 別表第1) に変更 (今回は事務所から飲食店舗と物販店舗 (←特殊建築物) に変更) する場合なので 法第87条の規定により確認申請手続きが必要になりました。

既存不適格部分の指摘と是正

はじめに用途変更をする前に既存建物が現状法令に適しているか?=検査済書を受けた状態のままかどうか?の確かめが行われます。一級建築士 (設計者) が自ら既存建物の完成図と照らし合わせます。

今回は外部立体駐車場に警備員用小屋が設けられていたり、共用トイレの出入り口は防煙区画だったのに区画が取り除かれていたので、これらが「既存不適格部分」として報告して、是正 (小屋は除去、防煙区画は復帰) することとして申請しました。

構造荷重確認

今回用途変更する部分について 当初建てられた際に設定された構造荷重より 今回の用途を変更する内容の構造荷重が軽くて安全であることを示さなければなりません。

元々は事務所だったので その設計構造荷重は2900N/m2≒300kg/m2で設計されていて、今回変更する用途:飲食店舗 物販店舗に利用される場合の

  • 設置される器具や商品や家具
  • 従業員や客

の荷重を計算して、元々の設計荷重を下回る確かめが行われました。

異種用途区画 (防火区画)

「防火区画」は、建物内で起きた火災被害を抑える (炎や煙が広がらない) ために設けられる防災の構造物や設備で建築基準法で設置が義務付けられています。

防火区画は、面積や使用用途などによって、

  • 面積区画
  • 高層階区画
  • 竪穴区画
  • 異種用途区画

の4種類に分かれています。

今回、用途変更する部分において、当初は建物全体が「事務所」の用途だったので異なる用途と用途とに出来る「異種用途区画」は無く、上記にはない「防煙区画」のみであったものが、これが今回の用途変更 (事務所→店舗) により「異種用途区画」に変更になりました。

防火区画仕様の変更

これまで防煙区画であった間仕切り壁が異種用途区画の防火区画に変わると、間仕切り壁の仕様が変わります。

間仕切り壁は1時間準耐火構造で、鉄筋コンクリート壁 もしくは LGS+PBt12.5×2を両面 が必要です。

これまでは LGS+PBt12.5両面 だったので、両側にPBt12.5 を増し貼りすることになりました。

防火区画貫通処理

防煙区画が防火区画になりましたから、区画を貫通する設備配管および配線は区画貫通部で防火処理を行う必要があります。

空気を通すダクトは火災時に鉄板で開口を塞ぐ防火ダンパーを取り付けて、細い配管および配線には火災時に膨張して火災の炎症を止める耐火パテを充填して処理を行いました。

開口設備の変更・特定防火設備

間仕切り壁の人が出入りする場所には扉が付いています。これまでは鉄製の扉で「防火設備」という仕様の扉でしたが、異種用途区画の扉は「特定防火設備」が求められて既存の扉は取り替えられることになりました。

排煙設備

火災時に出る煙を建物外に排出する設備:外壁窓は「排煙設備」としても設置されています。

この「排煙設備」が基準通りに設置されているかを改めて確認します。

換気設備

室内の空気を外部に排出する設備の設置が義務付けられています。

非常用照明設備

非常用照明器具とは、火災や地震やなどによって停電したときに、予備電源によって点灯し、室内から外部に避難したり救助するのを補助する照明器具です。基準に従って設置されます。

消防法と消防設備

今回の事務所から飲食店舗および物販店舗に用途を変更することで、飲食店舗と物販店舗に必要な消防設備が設置されました。

  • 消火器
  • 自動火災報知器(煙感知器)
  • 放送設備
  • 避難口誘導灯

確認申請後には改めて 消防設備設置届、消防設備使用開始届が必要で検査を受けます。

確認済書

福祉のまちづくり条例、建築基準法、消防法に関わる申請内容について審査に合格すると「確認済書」が発行されました。

この確認済書発行までに、初めのご相談から用途変更設計を経て 福祉のまちづくり条例協議 そして 確認申請審査で5ヶ月を要しています。

工事と完成検査と工事完了届

確認済書 取得後 工事が開始されました。申請内容に沿って進められた工事について内容を確認して (検査して) 福祉のまちづくり条例、消防設備、各々合格し、工事完了届が提出されて受理されました。

用途変更の場合、建築基準法における建築指導課 もしくは 確認検査機関の現地立ち会い検査はなく、工事監理者による検査により合格の場合は「工事完了届」が建築指導課に提出されて終了となります。

この工事完了届の提出と受理されたことによって建物は再び適法な建築物となり、将来の変化に適合できることになります。

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