東京日本橋の商業ビル密集地に建つ河豚号ビルで、用途変更を行なって、建物竣工後に定められた「地区計画」の容積緩和措置を受けたいとのご相談をいただきました。
(本記事は、最終的な用途変更 確認申請を行う前段階の「地区計画」における「容積率緩和措置」を受けることができる認定条件をクリアできなかったために用途変更には至れなかった調査確認業務の経緯を綴っています)
用途変更によって地区計画の容積緩和措置を受けたい
この「地区計画」(人形町・浜町河岸地区計画)は「この地域が地場産業と居住機能が混在して発展してきたまちで、老朽化した建築物が多く存在していたことから、既存建築物の建替えをしやすくすることにより建築物の不燃化を促進するため、また、定住人口の維持回復を目標として、中央区独自の建替えルールとして、個別建替えの促進を図って定められた」計画です。
その内容のひとつは、建物の一部を住宅の用途にすると、容積率(敷地面積に対する建築延べ面積(延べ床面積)の割合)を基準容積率を20%割増せる措置 (敷地面積によって変動) があり、そちらを利用すると現在まで利用していない駐車場スペースを店舗にすることが出来るため、建物利用の活性をしたいとのことでした。
駐車場の部分の面積は、当初の計画の容積率算定の際、延べ面積の1/5まで容積率に含まれない緩和措置があり、この緩和措置がすでに利用されていた建物です。しかしながら、現在では駐車場の利用が無いために、駐車場の容積率不加算分を地区計画の容積率緩和措置により容積率を確保して、駐車場部分を店舗に用途変更を行いたいご計画です。
用途変更が可能か確認作業
まずはじめに、本建物が用途変更を行えるかどうかの確認調査を行いました。
用途変更を行うためには、以下の内容の有無を確認しなければ、用途変更確認申請は困難です。
- 既存建物の工事完了検査済み書の有無(書類の有無ではなく完成時に完了検査を受けたかどうかの確認)
- 完成図の有無(完成時の状態を確認するため → 完成後に増築や改築などを行なったかどうかの確認)
- 構造計算書もしくは構造計算概要書の有無(用途変更する部分の構造的確認を行うため)
上記3つが揃っていることが最低条件です。
特に「完了検査済書」は発行されていないと、法令的には建物が「未だ工事中」であり完成していない状況であり、完成して合格した建物でないと次の変更(増築や用途変更)を適法に行うことはできません。
今回は全て揃っていることを確認できました。
かつまた、完成時の図面と照らし合わせても増築などは行われていないことから、建築基準法の用途変更は可能であると判断しました。
地区計画の容積緩和を受けるための認定条件
地区計画は各地区毎に条例内容が定められていて、当該地区特有の規制が掛かりながら、特有の緩和措置があることで、当該地域の特性を引き出し導こうとする条例です。
緩和措置
具体的な緩和措置は「住宅に付随する生活利便施設(=住宅 もしくは 共同住宅)」又は「公益施設」の用途に供する部分を設ける建築物について、容積率を緩和する」として、容積率を「基準容積率 ×1.2」とする制度です。(基準容積率とは、都市計画法で定められた用途地域分類上の容積率 もしくは 前面道路幅員による容積率)
そこで建物の事務所として利用していた部分を住宅に用途変更を行なって、上記緩和措置を受ける方針にしました。
緩和措置の認定条件
容積率の緩和措置を受ける場合、建築基準法の規制とは別のこちらの地区計画特有の規制を受けることになります。この規制をクリアできれば、容積率の緩和措置を受けることが出来ました。
- 外壁の壁面後退(道路側):50センチ以上壁面後退
- 外壁の壁面後退(隣地側):25センチ以上壁面後退
- 2方向避難の確保:2つの直通階段 または 避難上有効なバルコニー の確保
でした。
地区計画の容積緩和が認定されるか確認
調査して分かった「容積緩和措置」が認定されるための規制条件について、既存建物に対して詳細に調査確認を行いました。
外壁の壁面後退(道路側・隣地側)
道路側の壁面後退について既存建物は、道路境界線から50cm以上後退していることが認定条件ですが、これは一部の改変を行えばクリアできることが分かりました。
また、隣地側の後退距離の認定条件は25cm以上で、これには商業地域において敷地に対して余白を作ることなく建てている建物であったため、クリアできませんでした。
2方向避難の確保
建物上階から地上階に達する2つの直通階段 もしくは 一つの階段と別ルートで避難ができるバルコニー の組み合わせによって、災害時に2方向のルートから地上に避難できることが認定条件ですが、この条件詳細は建築基準法の避難規定とは別に 多少条件が厳しくなっているものでした。
結果、地上に避難ができるバルコニーのルートが多少の改変を行なっても確保できないと判断されて、この条件もクリアできませんでした。
認定条件が揃わない=容積緩和措置が受けられない
認定条件の3つのうち、上記の2点において、認定条件をクリアできることが出来ないと判断されたため、今回は容積率の緩和措置が受けられないことが判明しました。
当然、地区計画条例が認定できないということは、その後に行われる予定だった用途変更 確認申請も不要となりました。
今回の建物は既存建物の状況が地区計画の規制認定条件に沿わない部分があったために、地区計画の容積率緩和措置を受けることができず 用途変更 確認申請も行われませんでしたが、建物の完成後に定められた法令や規制において、各地区における現況に即した都市計画=地区計画による規制緩和があることに着目して、当初の利用方法が現在には即していない場合などについて見直しや変更ができる機会があるので、建物完成から時間が経過した物件で地区計画が定められている地域については 建物の用途や容積率に見直しをすることでより好状況な建物に生まれ変われる可能性があることを感じました。
—北島建築設計事務所が行った用途変更など申請手続き実績説明—
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