開院のご相談
開院のご相談をいただいた医師先生は 患者さんが居られる診察室と処置室との間の防音性能に関わる課題を持って居られていて、北島建築設計事務所の実績であるメンタルクリニックの実績や 防音遮音に関わる実績記事をご覧になって、同じ課題を解決できると判断されて当方にご相談をいただきました。
それは、
- 診察室への雑音の除去
- 患者さんとの会話が外に漏れない
という建築的には「防音・遮音」に関わる技術的性能でした。
防音の性能と間取りプラン
診察室である個室の防音を内装工事で実現するには、部屋を取り囲む壁の防音性能を高めることと、合わせて間取りプランの工夫でさらに防音の効果を高めることにしました。
防音の間取りプランの工夫
個室を囲う壁面の防音性能を高めると同時に、間取りプランを工夫することで、診察室の防音・遮音性能を高めました。
待合室から診察室までに至るに、敢えて通路を設けました。待合室からは診察室の扉は見えず、通路を進んで曲がった後に扉が見え、診察室に至ります。
すなわち、防音性能を高めた壁を多重に配置して、診察室ー待合室の音響空間を分離させています。
防音壁
個室を取り囲む壁面の防音性能を高める方法は、壁を立てるために初めに並べる柱材(下地材)を、通常は1列に並べるところを2列にして並べて、両側に壁の板を貼る方法が簡易でスペースも多く取らずに済みます。
通常の壁 (左図) は、壁板の片方に音が伝わると下地材に伝わり反対側の壁板に伝わり、反対側の部屋に音が流れてしまいます。
下地材を2列に並べた場合 (右図) は、壁板の片方に伝わった音は、下地の片方までにとどまり反対側の下地材と壁材には伝わりません。これで個室の部屋の防音が可能になります。
この下地材を2列に並べた壁の中に、グラスウール吸音板を充填すれば、音は吸音板に吸収されて防音効果は高くなります。
下の写真では、軽量鉄骨下地の柱が、約1センチの隙間を空けて互い違いに並んでいる様子です。
開院予定場所の内装設備条件の確認
診察室の防音に関わる設計や仕組み、そして造り方などをご説明して実現することが可能であることをご理解いただきました。
同時に、開院を予定している候補地を現地確認し、心療内科開院に問題ないかを確かめました。
▶︎ 関連記事「心療内科精神科開院予定の賃貸テナント内装設備条件スケルトン確認」
部屋の広さ、天井高さ、給排水設備、電源設備、換気用の外壁開口、空調エアコンの室外機置場などを確認して、開院できると判断し、内装設計が始まりました。
間取りプランの検討
本文の冒頭から、防音に関わる技術とプランのお話しをしましたが、それだけがはじめに行われたわけではなく、全体の間取りプランの検討と設計が行われながら、医師先生とのお話しは進みました。
部屋の構成
はじめに医師先生からお聞きしたのは、必要な部屋の構成です。
- 診察室・・・2室
- 処置室・・・2室(診察室に隣接する)
- スタッフルーム
- 院長室
- トイレ・・・患者様用2、スタッフ用1、手洗い洗面室はトイレとは別にする
- 待合室+受付
というご希望でした。
動線のご希望
また動線に関わるご希望は、
- 患者用トイレは待合室に面すること
- 診察室と処置室は対として隣接させること
- 診察室と処置室はそれぞれの部屋に直接出入りができること
というものでした。
エスケープドア
さらに、診察室と処置室にはエスケープドアを設けて、2方向の出入りができるようにされたいご希望もいただきました。
中廊下の間取りプラン
記事冒頭にお話しした防音の観点からも、間取りプランは待合室から廊下が伸びて、廊下に各室が面すると言う形になりました。
待合室からは各室に直接手入りができて、さらにエスケープドアもあります。
2つの診察室が離れて位置する心療内科の間取りプランが完成しました。
内装インテリアの設計
間取りプラン完成後、各部の設計に移り、医師先生と相談しながらご希望をお聞きして、詳細設計が進められました。
玄関は自動引き戸を設置
出入り口は1カ所しか無くて、患者様もスタッフも同じ所から出入りします。
既存の玄関扉は各テナントを区画する鉄の扉で使い難いと医師先生は判断されたため、自動で引かれるガラスの扉を付けることにされました。
靴拭きマットの下の床
医院の場所は2階にあり、道路歩道から直接上れる屋根付きの専用階段が有ります。階段の最後に玄関が有る形になりますが、雨の日、雨の歩道を歩いて来られた患者さんが階段を上がって自動引戸の玄関に入るまでに有る程度雨水は落ちますが、乾燥状態までにはならないので、自動引戸の玄関の内側には靴拭きマットを置く前提で、床材は雨水に濡れても大丈夫な塩化ビニール製のシート材を貼ることにしました。
目隠し格子
玄関を入ると広い待合室+受付カウンターになります。玄関に入った患者さんも、椅子に座って診察を待っている患者さんも、突然出入りされる方の動作は気になるところです。
玄関の自動引戸が動いた音は聞こえても、すぐに動作が見えず、視線も合わさないようにするために、床から天井まで届く縦格子を玄関の脇に取り付けて、待合室の静寂を保てるようにしました。
受付カウンター
患者さんが来院して診察の受付をしたり、診療後の費用を支払ったり、次回の予約を行う受付カウンターは、可能な限り同時に複数の患者さんが立ち会った場合、対応する会話が被らないようにするために幅の長いカウンターになりました。
カウンターの両端にはカウンター内部の人が待合室に容易に出入りできるように扉を設けました。
待合室の壁
待合室のデザインは医師先生から「樹木と葉の表現」が感じられるような表現を求められました。検討の結果、壁面に様々な表現を施すと待合室が落ち着かなくなると判断されて、壁面全面に樹のパネルを貼るデザインを選ばれました。
受付カウンター上の下り天井と通路
受付カウンターの上部は天井を下げて、下げた部分に間接照明を仕込んで演出しました。
下がり天井は明るい木目のシートを貼って、これが診察室に向かう通路につながって、患者さんの動線を表す部材になっています。
待合室の吸音と床のカーペット
患者さんの落ち着きの為にも待合室の静寂さが求められました。すべての音を吸音してしまう位のレベルではありませんが、床に毛の長い厚めのカーペットを使用して吸音材にしました。
待合室の椅子家具
待合室で患者さんが座る椅子は、感染症防止対策を踏まえて、患者さんと患者さんの距離を保つことを踏まえて、敢えて長椅子形状のものを選ばれました。
幸いにも待合室が広いために、様々なレイアウトが可能で、最大の距離感覚を保つ場合は、長椅子に1人(組)としてお座りいただくことも想定された椅子形状です。
患者様用手洗い台とトイレ
待合室に面して患者さんが利用するトイレを2つ設けました。
双方とも出入り口には引き戸を設け、一方には可動式の手すりを、また一方には赤ちゃんのオムツ替えができる可動テーブルを設けました。
トイレとは個別で利用が出来るように、手洗い洗面を行うカウンターを独立して設けました。玄関扉の直近に設けて、来院された患者様が直ぐに手洗いうがいが出来る様にしました。
患者さんの使う扉を引戸にする
院内では院内の扉は、特に患者さんが利用する扉は引き戸にしたいと言うご希望をいただいていました。
これは間取りプランを検討している際に並行して検討することで実現できることです。引戸は開いたとき、その戸が移動する壁面が無いと実現できないからです。
診察室・処置室の手洗い
医師先生は処置室に手洗い台を設けることを検討していました。
特に液体の薬や患者さんに手当てをする部屋を特定して、そちらに手洗い台を設けることにしました。
排水ポンプ
トイレや手洗い台を利用すると水と捨てる水の排水処理が必要になります。
こちらの場所はテナント物件なので、排水する水を下部の床を貫通させて下階に落とすことができません。各テナントのパイプシャフトに設けられた排水管に繋げなければなりません。
そこで、手洗い台の排水を天井まで押し上げて排水を送る排水ポンプを設けることにしました。
排水ポンプを設けない場合は、排水管を壁に沿わせて巡らせて、パイプシャフトにある排水管につなげるか、床全体を上げて床下の空洞を作り、床下に排水管を設置する方法があります。
可動手洗い台
上記の手洗い台とは別に、管轄する保健所の指導で、患者様が診療を受ける各室には手洗い台を設けるという指導を受けました。
各室に手洗い内を設けると、
- スペースが狭くなる
- 給排水管の新たな設置が必要になる
ことから、可動式の手洗い台を置くことにされました。
照明の色
クリニックの照明器具の色温度は大きく分けて2つに分けました。
患者さんの診療を受けていない待合室や通路を温白色として、温かみのある雰囲気を演出しました。
診察室や処置室は白色として、明るさと安定した色彩が感じられるようにしました。ただし診察室と処置室の器具は、調光・調色が出来る器具で、照明器具がLEDになったために選択出来るようになりました。
エアコン
空調エアコンは各室に個別に器具を設置しました。
各室の外部温度環境の影響、入室している人数が異なることで、必要な空調負荷が異なり、変化の速さに対応出来るためです。
換気
室内空気の入れ替え換気の仕組みは、待合室や通路に外部の新鮮空気を取り入れて、各扉の隙間から部屋に空気を取り入れて、天井に取り付けた排気口からダクトで連結して外部に空気を排出しています。
各部の詳細な設計が行われて、設計図がまとめられました。
工事金額のお見積り依頼
まとめられた設計図をもとに工事金額のお見積もりを複数の工務店さんに依頼することになりました。
最近では工事金額のお見積もりをしても工事の繁忙と人手不足により、お見積もりの依頼は断られることがあるために、お見積もりを依頼する工務店さんは5社選んでおきました。
実際お見積りの依頼をすると、2社は予定が詰まっているとのご返事をいただいて3社様に工事金額ものお見積もりを依頼できました。
お見積書を3社さんからいただき、内容に不備がないかを査定して、内容には問題がないことを確認したことを先生に報告し、工事を依頼する工務店さんを選んでいただきました。
内装材料をパース完成予想図と実物サンプルで決定
工事が着工して工程スケジュールが確認されると、工務店さんから提示されたサンプルの中から、使用する材料を設計中に描いた完成予想図パースと見比べて検討し選んでいただきました。
セリフレベリング工法の床下地
工事の初めは、床が水平になっていないので、薄く緩いモルタル材料を床に水を張るようにして新たな水平な床を作る「セルフレベリング工法」で床の下地工事が始まりました。
この上に壁を立てたり、床材を貼ったりと、工事の基準となるものなります。
防音壁下地
診察室を始めとする患者さんが診察を受ける部屋の壁は防音仕様にして、周囲の雑音が部屋に入らないようにしたり、診察の会話が外に漏れないようにしました。
壁板を貼るための下地用柱材を1列には並べずに、互い違いになるように並べます。柱材にいた罪を取り付けると、板材と反対側の板材は柱材がくっついていないので離れることになります。離れることで手前の部屋の音が隣に伝わらない仕組みになります。
開院お知らせ看板
新たにクリニックが開院することを事前にお知らせするために、工事中にクリニックの窓の内側にお知らせを貼りました。
道路の反対側からも見えるような大きさの文字で、可能な限りの宣伝をしようと試みたものです。
医院名看板ロゴデザイン
クリニックの看板や配布物の名称に使われるロゴデザインは、医師先生ご自身がインターネット上のデザインサイトで創作いただいたものが採用されました。
医院の看板
クリニックの外部に面する場所の看板は、
- 外壁ガラス面
- 地上入り口部分の外壁面
- 玄関のガラス窓
に設置されました。
診療所開設届と厚生局届出
保健所への事前相談や厚生局への届出の内容確認は、今回は医師先生自身が窓口になって進められました。もちろん平面図やその他資料は当方で取り揃えさせていただきました。
保健所に対する間取りプランの相談確認、届出ともに滞りなく進められ、無事開院、保健診療が始められました。
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