国道1号線不動坂交差点に架ける歩道橋にエレベーターシャフト建屋

国道1号線に歩道橋を架ける

横浜市戸塚区の国道1号線の不動坂交差点は、非常に車両の往来の多い交差点です。

歩行者が道路を横断するには、反対側にある離れた横断歩道を利用しなければならず、歩行者に不便をかけていた場所でした。歩道の拡張の整備に伴って歩道橋が設置できるスペースが確保されたため、歩道橋が設置されて、歩行者の利便性と安全が確保できました。

歩行者の歩道橋上がり下がりの利用には、階段ではなくスロープが設置されました。自転車で往来する人も横断できるためです。

歩道橋にエレベーターを設置する

歩道橋の上がり下がりに設けられたスロープは、設置スペースの関係で 身体に支障がある方でも利用出来る様な勾配と比較すると角度の付いた斜路でした。

そこで誰でも支障なく歩道橋を利用出来るように、各スロープの袂にエレベーターを設けることになりました。1対で2つ必要になります。

不動坂歩道橋EV建屋シャフト

エレベーター+建屋の設計仕様

エレベーターの設計には以下の条件が求められました。

  • 誰もが支障なく利用出来る様にする
  • 自転車利用者も自転車を載せて利用出来るようにする
  • エレベーター建屋はメンテナンスが必要ない様にする

誰もが利用出来るエレベーター

誰もが支障なく、利用できる公共施設の基準として、横浜市には「福祉のまちづくり条例」という条例基準があります。

この条例基準には、

  • 出入り口扉の幅
  • 押ボタンや音声ガイド
  • 手すりや鏡

などに詳細な整備基準があって、その基準に従って設計整備されました。

車椅子と自転車が乗るエレベーター

車椅子利用者や自転車利用者が自転車を乗せたまま乗れるエレベーターとするために、エレベーターの乗り場のカゴ寸法は、幅140センチ × 奥行き200センチ となりました。

また、カゴには片方から入り反対側に出る形式になりました。カゴの中では、自転車は回転できないからです。

メンテナンスの要らない建屋

建設後に、建屋の維持管理や修繕に費用がかからないようにするために、いくつかの工夫が施されました。

建屋が汚れたりしないために以下の方針で設計されました。

  • 可能な限り単純な形にして、部位は兼用して少なくして、雨漏りなどの故障が起きにくくする
  • 外壁やエレベーターには汚れがつかないような材料を選択する
  • 雨水が建屋に入ったり、外壁に残ったままにしないようにする

建物の使いやすさと長寿命を達成することはとても重要なことです。これまでにさせていただいた設計の経験と結果をもとに 新たな建物に反映して公共建築の健全が維持出来るように努めました。

エレベーター建屋の設計

エレベーターは電気で制御される繊細な機械です。屋外の天候の影響を直接受けてしまうと停止してしまい、故障してしまいます。

エレベーターを保護するための覆いとなる建屋は、エレベーターが上下するための支えとなりながらも、外界の雨水や風や砂埃や悪戯をシャットアウトするために設けられます。

故障のない長寿命な建屋を目指して以下のような工夫が施されました。

故障の起きにくい単純な形状・窓なし外壁

建屋の形状は、エレベーターの支えに必要な骨組みと全体重量の軽減と現地の工事期間の短縮を実現するために、鉄骨骨組み+屋根外壁板 の仕組みが選ばれました。鉄筋コンクリートでも造れますが、全体重量が重くなることと、現地工事期間が長くなるため、鉄骨骨組み+屋根外壁板 が選ばれました。

エレベーター建屋の形状は、

  • 雨水の浸入
  • 砂塵の固定付着

を防止するために単純な直方体になりました。

部分的な出っ張りや引込みは 雨水浸入や砂塵付着の原因となりやすいからです。

また都市部にあるエレベーター建屋には、内部の様子が見えるガラス窓が設置されていますが、維持管理に費用がかかることと、内側のエレベーターの上下のみしか様子が見れないために、さらに上記の出っ込み 引っ込みも含めて検討されて、結果 不要と判断されました。

平坦な屋根・防水

雨水の漏水や埃の侵入は、材料と材料との繋ぎ目部分が離れたり劣化して穴が空いて侵入するというものがほとんどです。

屋根の広い面の中で、故意に損傷を加えられない限り、防水材そのものに穴が空いてしまうことは非常に稀です。

そこで「単純な形にして部位を少なくする」ことや「出っ張りや引込みをなくして」侵入する部分を極限まで無くすことが理想で、詰まるところ「広い面板で屋根を覆う」ことが出来れば、屋根防水からの漏水を永く防ぐことが出来ます。

そこで、屋根 (防水) には、屋根面の骨組みも兼用出来る金属パネル材 (アルミハニカムパネル) が採用されました。

金属パネル材 (アルミハニカムパネル) は、

  • パネル自身の強度だけで屋根面を構成出来る
  • コンクリート+防水材 などの屋根面と比べて軽い
  • パネル面自体が金属板面なので防水面になれる
  • 広いパネルで設置できるので 繋ぎ目が少ない
  • 外側にも出っ張れて乗降乗り場の庇になれる

という、1役で複数の役割を兼用できました。

アルミハニカムパネルとは、アルミ製の板材を加工して接着して形成するパネル状の製品で、厚み100ミリの金属板です。薄いアルミ板を6角形に折り広げ、その上面と下面をアルミ板で挟んで接着して蓋をする形のパネル製品です。この板は1つで「構造骨組み+屋根防水」になります。

汚れにくい外壁板と塗装

建物の外壁が汚れる仕組みは、雨が降り、外壁が雨水で濡れて、雨水に空気中の粉塵(地面にある土砂や車両の排気ガス)が付着して、付着した粉塵がそのまま外壁に残って付着しているものが重なって汚れに見えるからです。

すると

  • 雨水と粉塵を外壁につけない か
  • 外壁についた雨水と粉塵をすぐに洗い流す ことが出来れば

外壁は汚れたように見えません。

そこで外壁について、以下に工夫して、汚れにくい外壁を構成しました。

水切り庇

雨水が外壁の汚れの原因の1つであることを上で説明しました。

その雨水を外壁から離す方法があります。外壁に簡単でも庇もしくは出っ張りを設けて、外壁に降った雨水が下方に流れ落ちたものを、庇で受けて、外壁から離して落とす方法です。

外壁に降り注いだ雨水は毎回毎回人力で拭いたり、乾かしたりする事はしませんし出来ません。様々な実例を見て、外壁が汚れていない場所と言うのは、雨水が降らないところか、雨水がきちんと外壁から離れさせられているところです。

今回は、屋根や乗降場の庇を外壁に沿って連続させて、ほんの少し外壁から出っ張らせることで、この雨水を外壁から離す仕組みを取り付けました。

この雨水を外壁から離すことを、建築業界では「水を切る」と呼んでいて、外壁から出っ張るものを「水切り」と呼んでいます。

セメント板

エレベーターのカゴ上下させる。骨組みを鉄骨で組み立てて、その周りに板を貼って、エレベーターに雨水がかからないようにするために、耐久性と防水性を考慮して工場で製品化される押出し成形セメント板が採用されました。

凹凸断面板

押出し成形セメント板は様々な断面形状がありますが、今回は車両の往来が多い国道交差点であるために、粉塵や排気ガスが多量にあり、汚れやすい状況であると判断されたために、汚れが目立たない外壁になることも求められて、表面が凸凹していることで 雨水が下へ流れやすい凹凸型のセメント版が選ばれました。

表面塗装材・外壁耐候性塗料

外壁 押出し成形セメント板の表面には、耐候性と製品寿命の長いことを考慮して、フッ素樹脂塗料が選ばれて現地にて塗装されました。この塗料は10年を目処に再塗装するなどの修繕が必要と予想されています。

雨水の浸入防止

建屋への雨水の侵入は、屋根、外壁からのものの他に、乗り場の出入り口などからも考えられるので、対策が講じられました。

庇:乗り場の雨除け

エレベーターの出入り口に、雨水が降り注がないように、乗り場の出入り口の上には、深く広い庇が設けられました。

雨水が進入しない工夫ー周囲地面の水勾配

交差点自体は、緩やかな坂道の頂上にあるような場所でした。洪水のような雨水が押し寄せた記録はありませんが、最近の集中豪雨(ゲリラ豪雨)のような短時間に降り注いで周囲に流れない雨水を想定して、出入り口付近の床を歩行の支障にならない範囲で多少盛り上げて雨水が近寄らないようにしました。

排水側溝グレーチング

それでも、出入り口周囲に雨水が溜まることを懸念して、出入り口前には排水側溝を設けました。排水側溝に入った雨水は排水管を通して排水処理されます。

外壁立上がりとコンクリート板

地面と外壁の間には、コンクリートで作られた基礎が巡らされます。周囲に降り注いだ。雨水が近寄っても建屋内に雨水が侵入しないために、立ち上がり、コンクリートの表面には塗料による防水膜が形成されました。

浸透性の排水釜場

万が一、建屋の中に浸入してしまった雨水は、外側に除去排水しなければなりません。ただしこちらは管理者様の場所からは遠方で、防犯カメラなどで状況は把握できたとしても、その対処は迅速に対応ができないので、いずれかの方法で建屋外に排水出来る様にする必要がありました。

こちらの建屋では、洪水や雨水の多量の浸入は、地形の状況から少ないと判断されたため、建屋の地下のコンクリートに穴を開けて、たとえ雨水が浸入して溜まっても穴から地面に浸透する方式が選ばれました。

エレベーターシャフト内の換気通気

エレベーターシャフト内の空気は、エレベーター機械の発熱、日射による屋根外壁の輻射熱によって高温になる場合があります。

高温になった空気の排熱は、機械換気による強制排気と建屋の上下に換気口を設けた自然排気の方法が選択できました。

他の同様な施設において、現状は自然換気の方法が多く、支障が生じていないので、こちらでも自然換気の方法が選ばれました。

建屋上部と下部に、雨水が入らないようにガラリが、虫が入らないように防虫網が設けられた 換気口が設置されて、暖まった空気が上部の換気口から外部に流れ出てその分下の換気口から外気が建屋内に入る方式です。

エレベーター乗り場出入口の照明

上部に屋根や庇がある場合、照明器具は屋根や庇に取り付けられることが多いですが、今回は乗り場上部の庇がアルミハニカムパネルで、電気配線がパネル内部に困難であったために、照明器具を外壁に取り付けて、アルミハニカムパネルの庇にも明かりを反射させて拡散させることも期待して、ブラケット照明を取り付けました。

エキスパンション・ジョイント

地震が起こったとき、歩道橋とエレベーターシャフト建屋は異なる揺れ方をするので、構造的に縁を切り、間にエキスパンションジョイントと呼ぶ異なる揺れに追随する伸び縮みする床金具を取り付けて、地震時にも床に隙間が開かないようにしました。

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